[aesop_chapter title=”海から生まれた生命” bgtype=”img” full=”on” img=”http://dashico.art.br/wp-content/uploads/2016/04/Isla_BAJA199.jpg” bgcolor=”#38d4d6″]

[aesop_character img=”http://dashico.art.br/wp-content/uploads/2016/04/Isla_BAJA022.jpg” name=”高橋ジョー” align=”left” force_circle=”off”]

生命は海が起源だという説がある。緩やかな長い変化と変異のプロセスにおいて、高熱にさらされたガスと電気が混ざってできるアミノ酸は、飽和後に雨水となって地上に落ち、そこで生じるたんぱく質が海に流される。ここからうまいスープができるのだ!この混合物から細胞が生まれ…生命が誕生した。この生命が海草や魚に進化するまではまだ数百万年が掛かるが、生命誕生の奇跡は既に起きたのだ。
あらゆる日本料理の基盤が海にあることには驚かされる。四方を海に囲まれた日本の人々は、料理を特別にする魔法の味を海から取り出す術を知っていた。この秘密はうま味として知られ、今日では人の味覚の5番目の基本味で、食べ物を味わう際にこくを感じさせるということが分かっている。食べ物にうま味があるとき初めて、「美味しい!」という感動が得られるのだ。だからこそ、うま味は「美味さ」であるとも言え、食べ物の味を高める要素だ。Dashicô.

うま味は、全ての伝統的な日本食の料理法の基礎たるダシの汁に含まれている。うま味をよく出す材料の一つは干し魚である。日本で最も一般的に使われるのは干し鰹の薄片である鰹節だ。鰹の切り身を火で調理して、凡そ3週間燻製にする。続いて、微生物が反応し始めるように、特別なカビをまぶせて日干しにすることで、切り身を完全に乾燥させ、石のように硬くさせる。この全製造プロセスは完全に手作業で、完成までに半年以上がかかる。続いて乾燥鰹はごく薄いかけらにスライスされ、汁に用いられるよう薄片で販売される。
うま味は鰹以外の魚からも得られる。イーリャ・グランデ島に移住した日本人移民は早い段階で鰯がうま味の源泉であることに気が付いていた。ダシコ、煮干またはイリコとも呼ばれる干し鰯は、たとえ数瞬でも故郷を思い出させる慰めの味を作るのに日本人移民が必要とするものであった。
ブラジルの日本人移民は、様々な部門で静かな革命を起こしたが、特にブラジル人の食の変化における影響は顕著で、それまでブラジル人の食卓では見かけられなかった葉物野菜、青物野菜、果物およびマメ科野菜などが、今日では、シンテュラン・ベルデ(帯状野菜栽培区域)と呼ばれる地域や耕作価値が無いと思われていたにも係らず日本人の手で耕され改良された土地で栽培されている。魚や海産物でも同じことが起こり、イーリャ・グランデ島で製造されたダシコは長いことブラジルで日本の味を再現するのに役立った。ダシコ製造は、世代を超えて伝えられた食文化を支える味の一つとなり、天国のようなイーリャ・グランデ島で数十年に亘って素晴らしく開花した。
原産物の不足により、ダシコ製造の時代は思い出と変わったが、運よく、この思い出を保存することに関心のある若者達のイニシアティブのおかげで、ダシコ製造の実践は、歴史の一部たる『modus operand-伝統製法』の永久的な記録のための恐らく最期の且つ決定的な機会として、貴重な映像の撮影を通じて、再現された。古参の漁師たちは、彼らがイーリャ・グランデ島にもたらしたものが知恵であり、まさにこの知恵のおかげで、2013年に日本食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことを知る由もないであろう。
イーリャ・グランデ島に根付いた日本人移民の大部分が、日本列島の最南に位置する島である沖縄県の出身者であった。イーリャ・グランデ島と沖縄は多くの点で非常に類似している。まばゆいばかりの景色、熱帯気候、海と調和した生活等がそれである。このイーリャ・グランデ島の新しい住人たちは、日本食に必須の材料を、まさに海から取り出したのである。故郷の地は遠くにあったが、心は、故郷のそれと同じく生命に起源を与えた水に包まれていたのである。

高橋ジョーは、文化活動プロデューサー・作家。30年以上にわたり、サンパウロ市所在の日本国際交流基金・芸術文化プロジェクトディレクターを務めた。現在は、『Dô Cultural』のエグゼクティブ・プロデューサーを務め、ブログ『Jojoscope』の管理人である。Melhoramentos出版から刊行された『A Cor do Sabor: A culinária afetiva de Shin Koike(味覚の色彩・シェフ小池信の感性料理)』と『Izakaya: por dentro dos botecos japoneses(居酒屋・日本のボテコの中へ)』という2冊の本の執筆者。